東松戸地域の場所性「縄文カレンダー」の視点より

はじめに -土地と人-
これまで歩いて東松戸地域の魅力を探し求めてきました。
そのイメージは、東京に近いところで、山林・森の豊かな環境に恵まれた都市生活を思い浮べています。
ますます開発の進むエリアを想像します。JR武蔵野線や北総線の開通によってそのスピードが増しているようにも思われます。
そのような状況に思いを馳せている時に市川駅南口図書館のギャラリーでも、「いちかわフォレストー冬の森へ探検だ!」のテーマが取り上げられていました(1/6-1/29)。
隣接する市川市においても松戸市と同様に『いちかわ森の交流会』が開催され、森の自然と触れ合う活動が盛んに展開されていると気づきました。
さあ!冬の森へ探検だ! ~モグ―ちゃんと出会う、市川の森ものがたり~本展示は、市川市に残る身近な森と、そこで活動する人々の姿を、物語とキャラクターを … 続きを読む →www.ekinan-lib.jp
総武線から西船橋駅で武蔵野線に乗り換え、これらの車窓で外を眺めていると、低地と台地の風景が繰り返し目に入ります。その時には心地にゆとりや落ち着きを感じ、癒される気になることもあります。

そのような時に、昨年(2025)8月に逝去された考古学者の小林達雄氏を想い起こすことがありました。「縄文カレンダー」の提唱や山林・森・暮らしなどにまつわる心象風景です。(『縄文人の世界』朝日新聞社1996他)
これまでに取り上げてきた東松戸地域の魅力を探る松縁会活動では、「紙敷三つの森-石みやの森・みなみの森・野うさぎの森」にそれぞれの特色を感じながらすばらしいボランティア活動を紹介してきました。
市川市の「天野谷津の森・わんぱくの森」も隣合わせて共にボランティア活動で森の保全に励み、市域や境界にかかわらず、同様なことが行われています。
都市生活者にとって自然との関わりは特有の意味がありそうです。

歴史地理学者の菊地利夫氏は、「土地・場所」への基本的な見方や考え方を提唱しています。
ある場所を理解するには、現在の姿だけでなく、過去からの連続性(時間)と空間的な広がり(空間)を同時に時空連続体としてとらえる必要がある、と論じています。(『歴史地理学』1998.1他)
グーグルマップで「東松戸地域の場所」を眺めていると、学者の提唱や見聞した事柄が想い起こされるとともに、今回のテーマをまとめる動機が生じてきています。<下記>
過日、河原塚南山自治会「小電動車グリスロ」関係者との相談会がありました。
その際に「野うさぎの森」広報担当の藤田史郎さんが、私の持参した「いちかわ森の交流会・活動団体のご案内」をご覧になって、つぶやかれた一言の中に動機があります。
「同期生が、隣の森で同じようにボランティア活動をしています!」
「松戸市の森」「市川市の森」という別の場所で、以前一緒だった「人」と「人」同士がそれぞれに、同じようなボランティア活動をしている、という事実です。
その市町村を分けた“偶然のできごと”がすぐ近くの土地で行われていることを知ったことに驚きがあります。これらの意義をまとめてみたいと思います。
「見方や考え方」
東松戸地域は、江戸川低地と下総台地西端に位置する松戸市の東部にありながら、都市と自然がほどよく溶け合う不思議な場所です。
下総台地の縁辺部には、かつて温暖化の影響で海が入り込んだ時期を含めて縄文時代の遺跡が多数発掘されています。
その頃は台地がまさに森や山林におおわれ、自然と一体となった暮らしぶりです。
その後、しばらくは小林達雄氏の唱えた「縄文カレンダー」のように、季節の移ろいが暮らしのリズムをつくり、森・水・台地が人々の生活を支えてきました。まさに自然の時を刻んできていました。
その「縄文カレンダー」とは、縄文人が季節ごとの自然のサイクル(春の山菜、夏の魚、秋の堅果、冬の狩猟など)を身につけ、中でも日の出入り位置から四季の識別をつかんでいたとされています。
それらを巧みに組み合わせて年間スケジュールを組んで「定住」の暮らしを可能にした生活の知恵を指すと言われています。

さて、今や武蔵野線西船橋駅からの車窓に見える台地に広がる森・山林、低地の谷津にも立て込む住宅群の混在が目に入ります。
これらの風景になる以前の様子を振り返ってみると、次のように想像されます。
近世の江戸期以前には、
台地:雑木林・薪炭林、畑作
低地:谷津田の水田、湧水利用
*人びとの生活は自然のリズムと密接な関連、里山への出入りも行われる景観
近代の明治期以降には、
鉄道の敷設、近代農業、軍用地・工場の立地など
*台地の開墾、雑木林の減少と都市化の進展、 自然と文化景観の混在
*縄文的な自然と生活のリズムは後退
現代には、 宅地化が進む一方で、武蔵野線沿線には畑・林・森がまだ残る
*生活は自然のリズムよりも、通勤・通学の学校・企業等の時間に依存
*「森の残る台地」「谷津田」「農地」が点在
*縄文的な“自然の時間”が断片的に残る
武蔵野線沿線の西船橋駅から東松戸駅付近など地域の土地や場所についての「見方や考え方」を改めて整理してみたいと思います。
菊地利夫氏は、土地の姿は過去から現在へと連続する変化の産物であり、その変化を読み解く方法として歴史地理学の本質があると説いています。
地域の歴史・自然・人の営みなどを深く見つめる私たちの松縁会活動にとって菊地氏の提唱は非常に示唆に富むととらえています。
この江戸川低地と下総台地に限らず、土地・場所に対しての基本的な見方や考え方は、地域の「今そこにある形・物」だけでなく、過去からの積み重ねによる人びとの営みや技術、社会の変化などが自然に織り込んだ歴史的な文化景観の重層を見究める方法にあると理解しています。
<参考>
東松戸地域の魅力<スローライフのすすめ>|松縁会 〜松戸をゆかりとする人の会〜
東松戸地域の魅力「1日里やま体験会」|松縁会 〜松戸をゆかりとする人の会〜
東松戸地域の場所性
東松戸地域の土地や場所について、「見方や考え方」から特徴としての「場所性」をつかんでみたいと思います。
そのために現代の生活ぶりについては、近くにある森や山林をめぐって視点として「縄文カレンダー」の意味することと、どう“つながり”、どう“異なる”のでしょうか。
見方としては自然が同じようにつながるか、異なるかの視点により、その相異を考える対比法から特徴を挙げてみます。
<つながる部分>
つながる部分としては、縄文の暮らしも現代も、地形が変わらずに生活の基盤そのものであることやその背景には森・山林・低地がある点で、今日の武蔵野線から見える風景と重なります。
また、植生の多くはおそらく縄文時代から大きく変わらず、自然の変化やリズムを感じて暮らす人の心地にその余韻を残しています。
季節変化は、樹木の盛衰や色づき、谷津の湿気や風の流れなどに表れます。これらは、縄文カレンダー的な“自然の時間”を同じように現代に伝えています。
<異なる部分>
生活の時間軸が「自然」から「社会」へ変わっています。
縄文の暮らしは、日の出から日の入りまでの日中活動にあり、動植物の季節変化に応じた食生活中心で、気候の周期に従います。
現代の社会では、電車のダイヤ、会社や学校の時間割、24時間フルタイム制など自然の時間より人工的な時間が生活の動きを決めています。
自然との距離感としては、縄文の暮らしでは自然は生活そのもので、恵みと危険を同時に受け止めますが、現代の生活における自然は環境的背景やレクリエーションの場となっています。生活の主な場は都市インフラに支えられています。
風景の見え方は、縄文のくらしでは森・山林の台地や水辺の低地など自然が連続した生活空間となり、現代では人工物の宅地・道路・鉄道などに分断され、自然は“点”として残っています。
武蔵野線の車窓から見える風景は、縄文時代の生活環境の“根幹”を今に残しつつ、江戸・東京の近郊都市として、近代以降の都市化によって生活の時間リズムが大きく変わった生活圏の景観と理解されます。
- 地形は縄文時代と大きく変わらず
- 森や畑は縄文時代の暮らし以後、近代以前の名残
- 自然の季節変化が人の心地に余韻を残す
- しかし生活のリズムは縄文時代とは全く異なる
つまり、東松戸地域は、縄文的な自然の豊かさと大都市東京の近郊地という場所性に恵まれた近現代的な都市生活の景観を有する、二重構造の特徴を指摘できるのではないかと思われます。
市川と松戸の森に通ずる「スローライフ」
東松戸駅の東方面では市川市と松戸市の境界がどこにあるのか、わからないほどの風景が見られます。
駅近くの市街地から少し歩くと、山林や森が目に入ります。市川市でも都市生活において自然の森に入って保全活動をするボランティアが盛んに行われています。
『紙敷みなみの森』ホームページでは、「森の風景」のコンテンツを用意してK・Sさんがドローンによる空中撮影をされた動画を視聴することができます。
H・Hさんの担当されているホームページでは、すぐ近くにあります「いちかわの森」や、「石みやの森」「野うさぎの森」も写し出されています。
紙敷みなみの森千葉県松戸市にある紙敷みなみの森の紹介サイトですminaminomori.thick.jp
「市川」も「松戸」も境界のわからない下総台地西端の地に、広々とした自然豊かな環境の空間をドローンという撮影機器の利用によりはっきりと描き出しています。
森の中には作業服を身に着けた会員みなさんの姿が目当てをもって活き活きと動く様子を見ることができます。
ゆっくりと時間の流れる森の様子は、市街地の雰囲気と異なる空気の流れを肌で感じさせているようです。
まさに非日常の「スローライフ」にふさわしい自然環境そのものと受け止めています。
過日、「1日里やま体験会」が、地主さんの理解と協力、松戸市役所みどりと花の課、松戸里やま応援団の協働体制によって実施されるなど、次世代を見据えたイベントも開催されています。
「みなみの森、石みやの森、野うさぎの森」の三つの会が協力して運営を担い、松戸市SDGs推進担当室の進める「まつどSDGs活動」にも通じていると思われます。
このような中で「野うさぎの森」広報担当の藤田さんは、ご自身の日常においてご近所の方々と仲間を募られ、「ノルディック・ウォーキング」のサークルにおいても、「松戸」「市川」の森や八柱霊園付近などをよく歩かれていると聞いています。
冒頭で紹介しました友人の方が他市の隣接エリアで活躍されていることは、「スローライフ」の着実な実践者として心強い同期のつながりをいっそう感じられ、充実感や安堵感の境地に達しているのではないかと推察いたします。
東松戸地域の場所性は、東京近郊地という地理的な位置ばかりでなく、交通の利便性を増した自然豊かな森に近い場にあることも提示しています。
藤田さんの「東松戸は海外や都心へ行くのも便利だし、助かります」という言葉には、外国の生活が長く、しかもよく海外に行かれる方にとっては実感のこもった話として受け止めることができます。
まとめ
これまでの小稿に関連して、「東松戸地域の場所性」を加えてみました。
自然豊かな都市環境は、時間に追われる暮らしをする人びとにとって、ほっとする心地の場でもあります。
ただ、多くの森は「私有林」です。自由に出入りができるようになっていません。地主さんの理解と協力によりボランティアのみなさんが活動される日に森の楽しさを体験することができる約束・決まりになっていることを理解しておきましょう。
下総台地には武蔵野線や北総線が通っています。この地域には低地もあります。
車窓からの眺めは、そこに畑地や田も住宅地も見えますが、台地と低地の様々な風景の中をくり返し森や山林の見えるところを通り抜けます。
その際の移り行く風景に、電車に乗る人の胸中には思い思いの揺れる気持ちもあると想像しています。
東松戸地域に山林や森のある自然環境について、「縄文カレンダー」の論説に基づいた「見方や考え方」によって読み解いてみました。
縄文の暮らしで得られた「四季折々の自然に向き合う知恵」は、現代の生活に四季の変化、自然のリズムを活かすことにも通じ、まさに「スローライフ」も取り組みやすい地域であることが明らかになりました。
また、ボランティア活動を通じた森の保全は、次世代に「自然」という大切な財産を残していく重要な働きだけに「まつどSDGs活動」としてきちんと意義付けされていることを改めて確認していきたいと思います。
(おわりに)
東松戸地域の街や森に向かい、歩くことを積み重ねてきました。その森の空間に自ずと馴染まれている方々と知り合わせていただく機会を得て、恩師の菊地利夫先生、小林達雄先生からの「導き」「学び」を想い起こしました。改めて恩師をはじめ皆様に敬意と感謝の気持ちを表します。ありがとうございます。
<石橋一夫>


