東松戸(紙敷)の森づくり「地域社会との関わりをめざして」

東京近郊地の松戸市には、地元出身者と首都機能との関係で移住してきた多くの人びとなどが暮らしています。
「なぜ今、森と地域社会なのか?」
目次
- あなたの“原風景”はどこですか?
- ボランティアの語る「森のリアル」
- <森林維持の重要性を語る(H・Hさんの場合)>
- <子どもの頃感じた環境から語る(M・Sさんの場合)>
- 次世代につなぐ森づくりの条件
- 松戸の森が「心の風景」になる日
あなたの“原風景”はどこですか?
これまで東松戸(紙敷)の森でボランティア活動に関わる皆さんの取材をさせていただいています。
この中で語られていたのは、多くの方が思い浮かべる出身地の景観や登山・自然の体験などでした。
“自身の原風景”と松戸の地形を重ね合わせた森ボランティア活動の意義が大きくクローズアップされています。
さて、あなたは自らの心や脳に思い描く“原風景”はどこでしょうか?
松戸にゆかりのある皆さんは、どのような“原風景”をあげるでしょうか?
どこの地域社会の場にも心の風景(心象風景)として拠り所のあることはのぞましいことです。
都市の生活空間にある紙敷の森では、ボランティアの皆さんによって「里やま保全活動」が続けられています。
活動の実績や取り組み方は、これまでの取材を通して献身的な実際のありさまをお伝えしています。
「里やま保全活動」がより多くの人びとと関わり、受け入れられることは、認知されている証です。
そのような都市景観と調和する森のある景観は市民の生活空間に根付いた景観の認識となって広まります。
そのためには、活動の意義を含めて市民の皆さんや地域社会との関わり方が問われます。
<今回テーマ>
地域社会にある「森」と人の関わり方
筆者としては、先史時代からずっと人の営みのあった東松戸の森をめぐって都市の発展や世代交代に伴う「世代つなぎ」の課題に関心があります。
「東松戸(紙敷)の森」については“新しく作るもの”ではありません。各地の人びとの想い出を重ね合わせた森を使用し、その魅力を再発見するものです。
その見方から都市の発展・世代交代の実情において森保全と地域社会の関わりについて取り上げてみます。
都市化が進む松戸市で、森が「心の風景」として再び意味を持ち始めています。 その理由を、森で活動する人びとの語りから探ります。
ボランティアの語る「森のリアル」
<森林維持の重要性を語る(H・Hさんの場合)>
会社を定年退職後、都内から妻の実家がある秋山に移住しました。
日課のウォーキングで近所の国分川沿いの小径などを散策する中で、秋山駅近くにあるこんもりと樹木が繁った森が気になっていました。
フェンスに囲まれ立入禁止となっていましたが、中を覗くと綺麗な竹林も広がり、珍しいつるべ式の古井戸が見えました。
ある日、そこを通るとフェンスの周りを清掃している方がおられたので声をかけたところ、「松戸里やま応援団」というボランティア団体でこの森の整備保全活動を行っているとのことでした。
定年後は何らかの社会貢献活動に携わってみたいと思っていたので、お願いしてさっそくその日から活動に参加させていただくことになりました。
それから約1年ほど、ボランティアの先輩方から、樹木や草花の名前、竹の間引きのやり方、折れそうな枝の落とし方など教えていただき、また森の恵みのタケノコやミョウガの収穫なども楽しみながら活動を続けていましたが、突然、森の売却が決まったとの知らせがありました。
以前より落ち葉や枝の風切り音で近隣の住宅から苦情が出ており、樹木の伐採など高額な費用負担に苦慮されていたことは伺っていましたが、大変残念な結果となってしまいました。
この状況を目の当たりにしたことで、森林維持の重要性を改めて考えるようになり、松戸市が主催する「里やまボランティア入門講座」を受講しました。
受講後、21期生のメンバー18人で今後の活動を話し合い、「紙敷みなみの森」の活動に参加させていただくことに決めました。
ここを選択したのは、地形や樹木、竹林などの環境面はもちろん、整備活動を担う人材不足が課題となっていたこと、それから森林維持に対する地権者の方の深いご理解があることが大きなポイントでした。
ここには、ボランティアが時間をかけて光を取り戻した素晴らしい竹林があり、私たちの加入で人数が増えたことで、保全活動もさらに順調に進んでいます。

現在一般の方が森に立ち入ることができるのは、毎年5月に開催される松戸市主催のオープンフォレストの期間だけですが、この素晴らしい森を普段から近隣の方々にも楽しんでいただけないかと、みんなで話し合っているところです。
具体的には、毎月3回のボランティアの活動日には森を一般公開し、森を公開して散策を楽しんでいただいたり、子供たちが遊べるハンモックやブランコなど遊び場の創出、森の竹を利用した竹笛や竹鉄砲、竹籠、一輪挿しなどもの作り講習会の開催なども検討中です。
現在、我々「松戸里やま応援団」は市内18か所に及ぶ森の保全活動を行っていますが、この活動をいかに次世代へ引き継いでいくかが大きな課題です。
まずは我々の活動や森で開催されるイベントを広く知っていただき、一緒に楽しんでいただくことが第一歩だと考えています。
今後はホームページの充実やSNSでの積極的な発信を進め、より多くの方々に森の魅力を届けて仲間を増やしていきたいと思います。<H・H>
<子どもの頃感じた環境から語る(M・Sさんの場合)>
水戸市で生まれ育ち、小学校時代には周囲の環境に関心の目を向けていた覚えがあります。
当時、近くを流れる川は生活排水の影響によって水面が泡立ち、水中には何かが“ぬっる”動く。
海の汚染や煙突の煙など高度経済成長期に公害の話題が聞こえ、身近なところで当時の子どもが感じた「嫌な環境」でした。
私は、人が住まうことも含めて動物、植物と同じように全体循環の動き・流れに応じて、それぞれに「パーツ」として残していくものがあると受け止め、森もその一つだと考えています。
それぞれが生きていくために食べ物を求めて動く中で、スズメバチや昨今の熊出没の問題が生じていますが、「区分け」「すみわけ」の可能なパーツがうまく機能していないと思っています。
「森のあり方」については、それぞれの考えがあって異なる意見があるのは当然と考えています。
野うさぎの森の活動に加わって6年目になりますが、当初は竹が繁茂して人が入れる状態ではなかったと聞いています。
地主さんの「里やま応援団活動」への理解もあって、徐々に森が整備されてきています。
森の手入れをすることにより人が入れるようにすることは望ましいことです。
日々の下草刈り、枯れ枝落としや危険木の伐倒などの作業で木は薪などへ転用することができ、伐採後の植樹など里やま活動に連なる動きです。
特に、都市近郊の松戸市で実施するオープンフォレストの日に一般の人びとが「森はいいね」、「こんな森があったの」と発する声をたくさん聞くことができるのは何よりなことです。
Kさんは、コナラの木などに近いところに育つ「キンラン」や「ヤマユリ」などの開花本数を数え、森に飛来した野鳥を観察するなど特色のある森の活動をしています。
また、森で切り倒された木を製材し、資材保管庫を作る特技を発揮している人、森の木や竹からゴム銃パチンコ、ウグイス笛や竹ブンブンなどの熱心に遊具づくりをする人などです。
それぞれの人の特長や個性の調和によるチーム活動により森の保全が進められています。
森の活動をする上で、刈払機講習やチェンソー特別教育を受講した人がいることは、活動の幅が広がり安全に効率的に進められます。
また、スローラインやツリークライミングの技術を身につけている人がいることも見逃せないことです。様々な技能をもつ人びとが仲間として一緒に森の保全活動をすることにより、持続可能な森になります。
この森を次世代につないでいく上で、配慮しなければならない活動の在り方を考えていく必要があると考えています。
今日、高齢者の就業が増加し、働く年齢が65・70歳過ぎまでとする定年のとらえ方ができにくく、社会貢献に身を置く人が少なくなっている現実が見え隠れしています。
森のボランティア活動に参加する人びとをより多くするため、活動日を土日に変更するなど工夫をしているところもあります。
若い世代が家庭生活を重視する傾向にある中では、子どもと一緒にできる環境づくりなどの工夫や配慮が不可欠です。
将来を見据えて保育・幼稚園児の活動や小中学校との連携なども積極的に取り入れていくことも必要です。

森の現実として、病虫害対策、活動する人の高齢化や近隣地域社会との付き合いなど課題があります。
森を次世代に存続させていくことが現在活動している者の務めです。森の変化があるのは、内外から様々な力が働いています。
この変化に対応して活動の在り方を常に見直すことも必要と考えています。
例としてドングリから苗を育て植樹していますが、日照不足や雑草に負けるなどで苗が育ちにくい状況があります。
そのため、日当たりの良いところで一定程度まで育てて植樹する方法などを組織的に取り組むことや関係機関との連携も検討し、実践化の方向性を打ち出すなどです。
近隣住民との関係も、日々の暮らしにかかわるだけに相互の立場を理解し、共感の得られる関係づくりに努めていくことが大事と自覚し、森の保全活動を進めていくことと考えています。<M・S>
次世代につなぐ森づくりの条件
二人の語りは、現在の森での活動がしっかりと根付いた樹々を象徴するように強固な活動基盤にあることを印象づけています。
と同時に、地域社会において森保全の次世代継承へ向けた明確な指針を示しています。
H・Hさんの定年退職後、ボランティアへの参加動機と体験は迅速な即戦力となりました。21期生18名が話し合う組織として機能し「紙敷みなみの森」に合流したことです。
このボランティア入門講座からの人材受け入れ体制は、とても重要な働きをもっています。
市役所の講座発足以来、年数が経ち、松戸市内各地の地主さんの受け入れに困難を伴うとされている状況があります。
このもとで次世代の方々を受け入れる「モデルケース」で、注目すべき事例で今後に活かされることを期待しています。
また、以前の森が売却された事実から「地権者の理解」の重要性を深く認識されています。近隣住民との関係に配慮した取り組みを重視されています。
特に単なる森の保全に留まらない「森の公開(ハンモック設置や竹細工講習など)」を通じて地域住民と関わり合い、広く受け入れようとする前向きで開放的な姿勢です。
「活動をいかに次世代へ引き継いでいくかが大きな課題です。」
そのような課題についてSNS・HPなど情報発信の必要性のもとに取り組まれています。
このすばらしい姿勢は多くの方々に森の魅力を届け、仲間を増やすことにつながり、市民の認識に共有されていきます。
日常的な地域の住民との良好な関係づくりは、森への見方を変え、森のある生活景観の定着を方向づけます。

M・Sさんの語りは、森の保全を「全体循環のパーツ」とする高く熱い理念を持たれていることです。昨今の熊出没に関わる地域社会への関心は注目したい点です。
市民の視点としては、人の暮らしと身近な動植物など自然との関係を森の景観をめぐる都市における生活空間の感じ方です。
「森の手入れをすることにより人が入れるようにすることは望ましいことです。」
普段、森は私有地のため禁止されていることを開放した日の事例をあげています。
近隣の人びとが森について好印象の言葉を発する意味について重要視されています。森の魅力を身近に感じる市民が増えることを見据え、期待しています。
市民の方々が森に入り、多様な樹々の生長やキンラン開花の様相などをお子さんたちとともに観賞することを想定されています。
また、小中高の教育機関との連携を意図されています。とりわけ森林の及ぼす影響が好循環をもたらす社会は「地域環境のパーツ」として機能している、と伝えることに意味があると言えます。
それらのことを踏まえてM・Sさんは森保全のポイントを次世代に向けて以下のようにあげています。
- 技能継承(チェンソー、スローライン等)と仲間関係の重要性を明確に指摘
- 子ども・学校との連携の必要性を強調
- 近隣住民との関係性を重視
- 社会や森の変化に応じた“適応型管理”の視点を持つ
それらを含めて二人の重点は森の運営・安全・技能継承などについて二つの見方からの語りとなっています。
一つは森そのものを持続可能にする仕組みで、技能の継承や運営が森の保全には不可欠としています。様々な技能をもつ仲間の存在が持続可能な森を可能にすると指摘しています。
- 苗育成の仕組み(育苗→植樹→モニタリング)
- 近隣住民との合意形成(落葉・日照・安全)
- 森の変化への対応(病虫害対策・高齢化・安全装備)
二つ目は人が世代を超えて関わる仕組みの整備が求められているとしています。
- 若年層・家族が参加しやすい曜日・方法の導入
- 地域住民が気軽に入れる「公開日」の定期開催
- SNS・動画・HPでの情報発信と森好感度
- “森の遊び”を入口にした参加促進(竹笛・竹鉄砲・ハンモックなど)
ボランティアの皆さんがこれらを実践・強化した活動を続けようとし
ています。人と人の関わる身近な地域社会のボランティア活動です。
この地は、古くからずっと続く「人と自然の関わり」が根付いています。
昨今、SNSなどをはじめとするネット社会に影響を受ける地域社会の現実があります。
他方、森の持つ美観には、閉塞感のある現代を生きる人の心を変える力があります。

松戸の森が「心の風景」になる日
地域の生活空間にある森を保全するボランティア活動についての取材をもとに、5回にわたって報告してきました。
市民の皆さんの多くに身近にある森を魅力ある「都市景観」として受け入れていただきたいと考えたからです。
献身的に活動するみなさんの動機や出身地、森活用の仕方、地域社会との関わりなどのテーマについて語っていただきました。
このことは森に関わることを好まれる方々に「森の魅力」をアピールしていただける訳です。
きっとわかっていただけると信じています。
松戸市は「台地」と「低地」のある魅力的な都市景観です。
今こそ、身近な地域社会にある森のある景観が多くの市民や松戸にゆかりの人の「心の風景(心象風景)」になることを願っています。
『松戸ブランド』の普及と『松戸市の再興・発展』の一助になれば幸いです。
<石橋>

